SPSP のランキングはどれくらい当たっているか
前の記事 「ランキングの良さはどうすれば測れる?」 で、ランキングの良さを測る 4 つの指標と、その使い分けを説明しました。この記事はその指標を実際のデータに当てて、SPSP のランキングが Elo、Glicko-2、UltRank などと比べてどれくらい当たっているか、実力帯ごとに見るとどうか、を確かめた結果です。
- 篝火 4 シーズン 180 大会で比べると、SPSP の総合ランキングは Elo、Glicko-2 より当たり、UltRank に対しても、まだ結果を知らない大会の予想では上回っています。
- UltRank はその年の実績をまとめる順位表で、集計期間の結果に対してはある程度の説明精度がありますが、これからの強さの予想には向かず、シーディングには不向きです。
- 実力帯で分けると、トップ層は直対評価だけが強く、裾野では順位評価を混ぜた総合が有利です。
1. 比べ方
対象は篝火 (国内最大級の大会) で区切った 4 シーズン、100 人以上の大会 180 件です。各大会について「大会直前のランキング」で予想を作り、その大会の結果と突き合わせます。指標は前の記事の 4 つ、ペア一致率 (PA)、平均絶対 SPR (MASPR)、上位シード勝率 (FWR)、アップセット幅 (ULG) です。PA と FWR は高いほど、MASPR と ULG は低いほど良い値で、優劣の判定は ULG と FWR を軸に行い、PA と MASPR はシードバイアスを受けるので併せて見るだけにします。2 つのランキングの予想を同じ大会・同じ結果に当てて差を取り、その差が運の揺れより大きいかを見ます。
アップセットは実力が同じでも運で起きます。だから 1 大会だけでは差が本物か分かりません。2 つのランキングの差を大会ごとに取って平均し、その平均が運によるばらつきの何倍あるかを見ます。この記事で「運の範囲を超える」と書いたところは、運だけでその差が出る確率が 5% を切る場合です。大会を 4 倍集めると、同じ差でも運によるばらつきは半分になります。
2. 方式の比較
同じ 180 大会で、いろいろな方式に同じ条件で予想させて比べました (素の Elo や Glicko-2 は過去のデータを見ていない状態から学習するので、学習が浅い最初のシーズンを除いた 3 シーズンで比べています)。値は、ペア一致率と上位シード勝率は高いほど良く、アップセット幅は低いほど良いです。
| 方式 | PA | FWR | ULG | 読み |
|---|---|---|---|---|
| SPSP 総合 (組み合わせ) | 0.860 | 0.784 | 0.173 | どの指標でも上位。ペア一致率では 1 位 |
| SPSP 直対評価だけ | 0.854 | 0.785 | 0.169 | 勝敗を見る指標では 1 位。上位帯はこちらが強い |
| SPSP 順位評価だけ | 0.855 | 0.772 | 0.187 | ペア一致率は高いが勝敗を見る指標では下 (シードバイアスの影響あり) |
| Glicko-2 (素のまま) | 0.833 | 0.765 | 0.190 | 計算式だけの方式では一番良いが、SPSP の調整には届かない |
| Elo (素のまま) | 0.820 | 0.752 | 0.208 | Glicko-2 より一段下 |
| JJPR (参考) | 0.831 | 0.745 | 0.225 | 参考値。試合の勝敗を学習しない方式なので、直接の比較対象ではない |
方式の順位は、13 種類の指標のうち 11 種類で同じ (SPSP の 2 つ > 順位評価 > Glicko-2 > Elo) になり、ずれたのは順位を見る指標だけでした。SPSP の総合が他の方式より当たっているのは、シードバイアスのせいではないと言えます。
3. UltRank との比較 (掲載 200 人の中で)
UltRank 2025 Japan の集計期間は 2024 年 12 月 17 日から 2025 年 12 月 15 日です。掲載選手 200 人の中だけで測るので、他の方式と同じ表には載せられません。集計期間の前・中・後とシーズンで分けたのが次の表です。太字は SPSP 総合と UltRank のうち良かった側です。
| シーズン | UltRank の集計期間との関係 | 大会数 | SPSP 総合 | UltRank 2025 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| PA | FWR | ULG | PA | FWR | ULG | |||
| 篝火 11〜12 (2023-10〜2024-05) | 期間前 | 30 | 0.781 | 0.677 | 0.305 | 0.692 | 0.659 | 0.375 |
| 篝火 12〜13 (2024-05〜2025-04) | 期間前 | 39 | 0.768 | 0.672 | 0.342 | 0.707 | 0.660 | 0.365 |
| 篝火 12〜13 | 期間内 | 25 | 0.721 | 0.657 | 0.393 | 0.715 | 0.645 | 0.365 |
| 篝火 13〜14 (2025-05〜2025-10) | 期間内 | 24 | 0.721 | 0.668 | 0.364 | 0.722 | 0.677 | 0.342 |
| 篝火 14〜15 (2025-11〜2026-05) | 期間内 | 7 | 0.736 | 0.650 | 0.395 | 0.743 | 0.633 | 0.331 |
| 篝火 14〜15 | 期間後 | 23 | 0.741 | 0.678 | 0.380 | 0.714 | 0.651 | 0.401 |
集計期間の中では、UltRank は SPSP と同程度で、アップセット幅では上回っています。その期間の結果を見て作られた順位表なので、その期間の結果に対してはある程度の説明精度があります。これは UltRank の本来の目的に沿ったもので、UltRank は 1 年間の実績をまとめる順位表であって、次の大会を予想する道具ではありません。一方、期間の前と後、つまりまだ結果を知らない大会に対しては、どのシーズンでも 3 つの指標すべてで SPSP を下回りました。UltRank は「その年に何を成し遂げたか」の記録としてはある程度の説明精度がありますが、これからの強さの予想には向かず、シーディングに使うのは不向きです。逆に SPSP は、結果を知らずに予想しているのに、結果を知って作られた UltRank とその期間で同程度だった、ということでもあります。
4. 実力帯ごとに見ると
ランキング全体の当たり具合は 2 節のとおりですが、「トップ層の並びは正しいか」「裾野は正しいか」は別の問いです。そこで大会の最終順位の帯 (1〜16 位、17〜64 位、…) ごとに、その帯の選手同士の試合と組だけを取り出して、4 つの指標で測りました (タブで切り替えられます)。前の記事で見たとおり、帯別の一次指標はアップセット幅です。深い帯ほどシード番号の近い選手同士の試合や組になるので、値そのものは帯によって変わります。帯をまたいで値を比べず、同じ帯の中で方式の間の差を見てください。
低いほど良い。帯別の一次指標。
| 方式 | 1〜16 位 | 17〜64 位 | 65〜1024 位 | 1025 位以下 |
|---|---|---|---|---|
| SPSP 総合 | 0.523 | 0.343 | 0.137 | 0.128 |
| SPSP 直対評価だけ | 0.507 | 0.334 | 0.135 | 0.133 |
| SPSP 順位評価だけ | 0.548 | 0.363 | 0.151 | 0.138 |
| Glicko-2 (素のまま) | 0.521 | 0.353 | 0.159 | 0.181 |
| JJPR (参考) | 0.570 | 0.413 | 0.197 | 0.179 |
| (試合数) | 4046 | 7498 | 32935 | 3150 |
高いほど良い。帯に絞ると差を検出しにくい。
| 方式 | 1〜16 位 | 17〜64 位 | 65〜1024 位 | 1025 位以下 |
|---|---|---|---|---|
| SPSP 総合 | 0.645 | 0.663 | 0.768 | 0.698 |
| SPSP 直対評価だけ | 0.651 | 0.666 | 0.769 | 0.693 |
| SPSP 順位評価だけ | 0.638 | 0.655 | 0.754 | 0.685 |
| Glicko-2 (素のまま) | 0.640 | 0.653 | 0.745 | 0.648 |
| JJPR (参考) | 0.634 | 0.632 | 0.719 | 0.659 |
| (試合数) | 4046 | 7498 | 32935 | 3150 |
高いほど良い。シードバイアスを受ける。
| 方式 | 1〜16 位 | 17〜64 位 | 65〜1024 位 | 1025 位以下 |
|---|---|---|---|---|
| SPSP 総合 | 0.701 | 0.718 | 0.838 | 0.726 |
| SPSP 直対評価だけ | 0.707 | 0.719 | 0.834 | 0.712 |
| SPSP 順位評価だけ | 0.692 | 0.711 | 0.830 | 0.722 |
| Glicko-2 (素のまま) | 0.700 | 0.711 | 0.813 | 0.682 |
| JJPR (参考) | 0.693 | 0.687 | 0.798 | 0.704 |
| (組数) | 14734 | 115616 | 4188852 | 1789608 |
低いほど良い。シードバイアスを受ける。
| 方式 | 1〜16 位 | 17〜64 位 | 65〜1024 位 | 1025 位以下 |
|---|---|---|---|---|
| SPSP 総合 | 2.303 | 1.427 | 0.812 | 0.696 |
| SPSP 直対評価だけ | 2.262 | 1.421 | 0.825 | 0.720 |
| SPSP 順位評価だけ | 2.384 | 1.478 | 0.837 | 0.715 |
| Glicko-2 (素のまま) | 2.337 | 1.482 | 0.883 | 0.807 |
| JJPR (参考) | 2.471 | 1.639 | 0.963 | 0.800 |
| (組数) | 14734 | 115616 | 4188852 | 1789608 |
装飾は総合と直対評価だけの比較です。太字は、その帯で相手より良い側 (目安で、運だけでこの差が出る確率がおよそ 7% 以下)。太字の斜体は、両者がほぼ同等のもの。他の方式は装飾していません。運の範囲を超えるかどうかの厳密な判定は、次の表を見てください。
上の表の差が運の範囲を超えているかを、同じ 4 つの帯で厳密に判定した表です。勝敗を見る 2 つが判定材料で、順位を見る 2 つは参考です。各欄は良かった側で、太字は運の範囲を超えたものです。
| 帯 | FWR | ULG | PA | MASPR | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1〜16 位 | 直対 | 直対 | 直対 | 直対 | 直対評価だけが強い |
| 17〜64 位 | 直対 | 直対 | 差なし | 差なし | 互角〜直対有利 |
| 65〜1024 位 | 直対 | 差なし | 総合 | 総合 | 互角〜総合有利 |
| 1025 位以下 | 総合 | 総合 | 総合 | 総合 | 総合有利 |
読み方と、分かったこと:
- トップ帯 (1〜16 位) は直対評価だけのほうが強い。 4 つの指標すべてで直対が上で、3 シーズン同じ向きです。上位の選手は週末大会の試合が豊富で、試合の勝ち負けだけで十分に測れます。
- 17〜64 位は互角から直対有利。 アップセット幅では直対が運の範囲を大きく超えて上で、3 シーズンとも同じ向きですが、他の 3 つの指標では差がありません。
- 65〜1024 位は互角から総合有利。 勝敗を見る指標では運の範囲の差しかなく、順位を見る指標では総合が上です。順位の差はシードバイアス (前の記事の軸 4) の向きと同じなので割り引いて読みますが、それでも総合が下回る指標はありません。
- 裾野 (1025 位以下) は総合有利。 4 つの指標すべてで総合が上で、3 シーズンとも同じ向きです。ただし 1025 人以上の大会は 5 つしかないので、勝敗を見る指標では単独では運の範囲を超えません。513 位以下をまとめると、上位シード勝率で総合が運の範囲を超えて上になります (これも 3 シーズンとも)。組み合わせる方式の利益が出ているのはここです。裾野の選手は対戦の記録が少なく、対戦の網も地域ごとに分かれているので、試合だけから強さを決めるのが難しく、大会の順位という別の情報を混ぜる意味があります。
- 裾野では順位評価だけでも Glicko-2 より当たる。 1025 位以下で順位評価だけ 0.138 に対し Glicko-2 は 0.181 で、素のレート方式は裾野に行くほど崩れます。
この結果から、SPSP の総合ランキングは「トップ層は直対評価、裾野は順位評価も混ぜる」という今の組み合わせ方が、実力帯ごとの性質に合っていると言えます。
まとめ
- SPSP の総合ランキングは Elo、Glicko-2 より当たっている。
- UltRank はその年の実績をまとめる順位表で、集計期間の結果はある程度説明するが、まだ結果を知らない大会の予想では SPSP を下回る。シーディングには向かない。
- 実力帯で分けると、トップ層は直対評価だけが強く、裾野では順位評価を混ぜた総合が有利。
数値つきの検定結果と再現手順は 「実データでの方式比較」 に、指標そのものの説明は 「ランキングの良さはどうすれば測れる?」 にあります。